「こうすれば上手くいきました」

子育てに関する本や情報には色んな「こうすれば上手くいきました」というノウハウが紹介されています。

私は以前は特別支援学校で先生やっていたので色んな研修があって、色んな先生のノウハウを学びました。

 

でも何故か自分がやるとうまくいかない。

 

「なんでかなー」と不思議だったんですが、ある自閉症の男の子とのやりとりの中でその謎が解けました。

今回、その謎が解けた時のお話です。

 

スケジュール通りにしない自閉症の男の子

高等部のとある男の子です。自閉症で知的障害もある子でした。

非常に表現難しいんですが、愛想ないんですが愛想があるんです。挨拶とか人との関わりは薄いんですが・・なんとも言えない愛嬌がある。

・・・うん、文字で伝えることは不可能ですね。あきらめよう。

 

とにかく無愛想だけど、優しくて良い感じの自閉症の生徒がいたんですよ。

お手伝いを自分からやってくれて、困ってたら助けもしてくれる。でも一人が好きで単独行動を取っていました。

蛇足ですが自閉症の子って「他人に興味がない」というイメージありますが「そんなことないなぁ」と個人的には思っています。

 

非常に優しい子だったんですが、一つ悩みがありました。

それは時間を守ってくれない。

単独行動が好きなので休憩時間や昼休みは一人でどこかへ行くんです。

理由は一人に遊びたいんだと思います。それは全然OKなんですが授業開始時間になっても戻ってこない。

 

彼は高校生なので卒業したらこの遅刻癖はちょっと問題になるかもしれません。

学校は先生が沢山いるので迎えにいけますが、作業所は職員数が減るので大変かもしれない。

 

よってこの子の遅刻癖をなんとかしようとあれやこれややってみたわけです。

 

スケジュール以前の問題だった

やったのはまずは言葉での説明。結果無理でした。

次に朝の会で時間を確認。無理。

簡単なスケジュールを用意しました。無理。

がっつりなスケジュールをしました。無理。

腕時計をしてもらいました。無理。

 

よくある成功例を真似て色々やってみたんですが無理。

「根本的に何か間違ってるな」と感じたので方向性を変えました。

 

やったのは「彼の好きなものからアプローチ」です。

自閉症の子に多いですが彼は鉄道が大好き。俗に言う「鉄ちゃん」です。

 

そこで「駅名シールラリー」を作りました。

実物あるのでみてみてください。これを自作したのです。

ちょっと分かりにくいかな。JRの駅名のシールラリーです。滋賀県から西へJRの駅名を書いていったんです。

ちなみにwordで作れます。

 

授業時間に間に合えば合格です。シールが一枚もらえて駅名のところに貼っていきます。

「時間に間に合うことで次の駅へ進める」というルール。

電車も時間に間に合わなければ乗れないわけで、ハマるかなと思ったらハマってくれました。

効果てきめんで遅刻癖はなくなりました。

 

時計もたなくても大丈夫なんです。探せば校内に時計ありますから。

スケジュールもなくてOK。「授業時間を守る」という意識が芽生えたんです。

 

そんな彼の変化で気づいたんですよ。

 

「方法じゃねーや」と。

 

無理なものは無理。出来るなら最初からやってる。

「スケジュールが意味ない」とかそういうことじゃないですよ。スケジュールの方が理解が早いですし、分かることで行動出来るようになるのも確かです。

ただそれ以前の問題もあるのです。

 

どんな問題かというと「無理なものは無理」ということ。

「やりたくないことはですね。そもそも意味が分かってもやりたくない」ということです。

 

例えばですね、全然着替えをしない、同じ服にこだわる自閉症の子がいました。

「彼はもうあの服しか着ないんだ」周りはそう思ってたんです。

とある機会でオシャレなカッコいい服に着替えることがありました。周りは「でも彼は着ないだろう」と思ってたんです。

ところが着るんですよ。カッコいいから。

 

分かりにくいかな。要は「好きか、嫌いか」「やりたいか、やりたくないか」ってことです。

どれだけスケジュールや支援方法を駆使して「これが正しい」「これがルールだ」と分かってもですね。

 

「嫌なものは嫌」なんですよ。

 

駅名シールでの彼で言えば。

多分もう言葉の段階で「授業に間に合わなきゃいけない」は分かっていたはずなんです。

彼は普段、視覚支援なしで行動してますから。

 

ではなぜ彼は規則を分かっていながらも帰ってなかったのか。単純な話です。

 

もっと遊んでいたかったからです。

 

彼はなぜ授業時間に帰ってくるようになったのか。

一人で遊ぶより「駅名シールラリー」の方が面白かったからです。

 

要はやる気やモチベーションが大事。方法じゃないんですよ。

photo by Kei Noguchi

 

 「自分らしさ」が鍵となる

自閉症の子でも、知的障害の子でも、ていうか障害の有無も関係ありません。

「自分らしさ」を大切にしてみてください。

「自分らしさ」とはその子の感情が前向きに動く物事です。「電車が好き」「サッカーしたい」「アイドルになりたい」「ヒーローに憧れている」とかそういうのです。

 

下手な方法よりもそっちの方がよっぽど早い。

予定変更を受け付けないスケジュールにこだわる自閉症の子でも自分の好きな内容に変更だったら受け入れるでしょう?

そういうことなんです。

要は「好きか、嫌いか」「やりたいか、やりたくないか」「無理なものは無理」ってことです。

 

それを「正しいからやるべきだ」「みんながこうしてるから」と考えると問題がこんがらがってきます。

正しいからやるんじゃないんです。でも学校の先生はそう考える傾向があります。

 

ヒントは逆です。学校は教えない「自分らしさ」です。何が好きで、得意で、どんな将来に憧れがあるのか。

行き詰まったらそこをみてください。突破口が見えるでしょう。