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自分の道はどこにあるのか

自分の道を探し続ける青年がいます。

 

私が養護学校で先生してたときの生徒です。※滋賀は特別支援学校を養護学校とよびます。

名前を悟志君といいます。

今23歳。

学校卒業後は施設入所支援で生活や職業訓練を受けていました。

現在、ボランティアをしながら自分の道を模索中です。

 

脳性麻痺という障害があり、小学校から卒業まで養護学校で学んできました。

悟志君は中学生のとき『将来は一人暮らしをしよう』と決意しました。

周囲からは反対する意見も多かったそうです。

 

反対をよそに目標設定をし、炊事洗濯などの日常生活、社会性を身に付けていきました。

卒業後、彼は一人暮らしを始めます。

 

一人暮らしの経験が意識を変えたようです。

『養護学校に通う子たちに可能性を伝えたい』という夢を抱くようになりました。

 

現実は冷たい

障害者作業所に彼が望む役割はありませんでした。

夢を語ると『じゃあ具体的にどうやるの?』など関係者から言われたそうです。

 

「夢はあるけど具体的な方法が分からない」

そんな状態になりました。

 

彼は就職しない道を選びました。

 

余談的になりますが。

子育て中の親御さんは知っておくと良いかと思うので書いておきます。

 

不登校や浪人や自分探しなど。

お子さんがみんなと違う道へ進もうとしているときどう受けとめればいいのか。

 

彼は作業所へ通っていません。それは楽な道ではないのです。

『一人だけみんなと違う道を行く』それがどれだけ勇気のいることか。

 

彼は孤独と戦っています。友達が減っても、反対されてもやる。

譲れないものがあるから一人でもその道を進もうとしています。

 

いわゆる典型的なサラリーマンとは、真逆の生き方でしょう。

彼を疎ましく、間違っていると批判する大人もいます。

 

正邪を言うつもりはないですが、怠惰や楽をしたいからでない、と断言出来ます。

 

世の中には少数ですが熱く生きたい人がいます。

少数ゆえに周りからの無理解に悩まされています。

 

『悟志ほど人生を真剣に考えているヤツいないと思うよ』と言ったら涙ぐんでいました。

そういうものなのです。

 

揺れる信念

悟志君の揺れる心境を話しましょう。

2018年の2月に私は彼と話しました。10ヶ月ぶりくらいの会話です。

 

食事をしながら話していると『就職しようかと思う』と彼は言い出しました。

『とにかく何かしないとダメだと想う』

『経験を積まないと何も言えない』

そんなことを言っていました。

 

『悟志の言葉じゃないな』と私は思いました。

 

「とりあえず就職してから」というのは先生がよく口にする理屈です。

その理屈が必ずしも正解でないことを彼は知っているはず。

 

『そうかぁ。悟志もみんなと同じように就職するのか』

と私は思いました。それもいいのです。彼が納得さえすれば。

 

ただ声色に覇気がなく、表情が暗い。

 

私自身、先生時代に孤独に耐えられなくなり、周りに合わせていた時期があります。

合わせすぎた結果、譲れないものを譲っていたことに気づきました。

 

私は「念のために確認しておこう」と思いました。

『悟志が今、一番やりたいことは何なの?』と質問しました。

 

『車椅子陸上をやってみたい』と彼は答えました。

 

『やればいいじゃん』と私が言うと滋賀に陸上チームはなく、京都まで行くしかないとのこと。

京都でやる陸上選手は県内にいるにはいるようです。

その人らとチームを作る方法もあります。だが繋がる手段がない。

 

またしても「夢はあるけど方法が分からない」という状態ですね。

 

ただこれは本来の彼らしくない。

行動力ある彼なら、とにかくあがくはず。

孤独が彼を弱らせたのかもしれません。

 

私はその場で滋賀県の障害者スポーツ協会に県内の陸上競技について問い合わせました。

返事は『来月から車椅子陸上クラブが立ち上がります』とのこと。

 

どうにも彼は運をもっているようです。

3月の練習会へ見学へ行くことにしました。

 

昔の空気が蘇る

練習見学会では歓迎ムードでした。

県内に陸上競技者は少なく、人材を求めているとのこと。

 

欠席者がいたこともあり、見学だけの予定が練習参加出来ました。

写真はスラロームです。

車椅子陸上専用のレーサーがあるのですが、1台50万円とか。

「まずは今の車椅子で出来るスラロームをやろう」ということに。

練習の成果は上々。

以前車椅子バスケをしていた経験が活かされたのか、筋がいいそうです。

 

やるごとにタイムが上がっていきます。

目標の1分を切ったときは笑みがこぼれていました。

その後も『早く覚えたい』と休憩なしで練習していました。

練習後、彼の雰囲気は高校時代のそれと同じになっていました。

自分のやりたいことをやったこと。周囲から歓迎ムードだったこと。

沸き起こる感動が彼を蘇らせたのだと思います。

 

帰りの車内では『来月の練習会にも誘われた』と嬉しそうに語っていました。

 

「就職」「陸上」「後輩に伝えたい夢」

これらは直接関わりがありません。

 

ですが今日の練習で彼の夢は動き出したでしょう。

どのような形か就職にも繋がるはずです。

 

私はしばらく彼のスピーカーになろうと思います。

彼の姿を文章にし、写真でお伝えしていきます。

 

『養護学校に通う後輩に可能性を伝えたい』

悟志君の夢はまだ叶っていません。

 

彼の夢は彼次第です。成功しないかもしれません。

 

それでも今日の練習はどこかに繋がっているはずです。

いつか花開くと思います。