『この世界の片隅に』という映画を観ました。

かなり気に入ったので原作の単行本も購入。読み深めていくと作品の奥深さがまだまだありました。

 

「勉強にもなって娯楽にもなる」

「これは良いものを見つけた」と思ってここで紹介させていただく所存です。

 

特別支援学校に通う子にも当てはまるなぁと思った

映画の主人公は北条すず(旧姓浦野すず)という女性。俳優であるのんさんが声優になっています

photo by http://konosekai.jp/

すずはのんびりした性格。

性根が優しく周りにたてつくことがない。

 

良い意味で癒やし系で悪く言えば周りに流される性格です。

 

「のんびりさと自己主張のなさ」

この二つが絶妙なバランスでなんですよ。

 

私は特別支援学校で先生をやっていまして。

沢山の障害ある子と関わってきて「のんびりした子」悪く言えば「周りに流れる子」も出会ってきました。

 

のんびりさがダメなわけじゃないのです。

むしろ長所でもあります。

 

ただ自己主張も必要。

世の中に出れば周りの人が常に自分のためを思って行動してくれるわけじゃないですから。

 

かといって自己主張ばかりでも孤独になります。

だからバランスなんですが、この主人公すずの変化は参考になると思うのです。

 

「うちの子のんびりしてるなぁ」と思うなら、オススメ映画なのです。

 

好きな人がいるけれど・・・

すずは18歳のとき北条周作と結婚します。ただ二人の面識は幼いころに一度会っただけ。

 

すずは周作のことを覚えてもいません。

周りは『イヤなら断ればいい』と言いますが、すずは周作をみて『イヤかどうかも分からん』といって結婚します。

 

ただ作品中にハッキリとした描写はないですが、すずは幼なじみの水原哲のことが好きだったのです。

また水原もすずに想いを寄せていました。

 

といってもお互いそれを確かめることなく、すずは北条家に嫁入りをします。

 

自分を出せないすず

すずは北条家に嫁ぎ北条すずとなるのですが、自分の気持ちを出せません。

といってもこれは普通に考えたら当然の話。

18歳で社会経験もないのに、いきなり余所の家で住まうことになるのですから。

 

だからこの物語はすずが北条家の一員となっていく過程を描写した映画なんですね。

そして結婚当初のすずは自分を出せないわけです。

 

夫である周作にも自分を出し切れません。

周作が嫌いとかではないんですよ。でも出せないのです。

 

といってもすずは「のんきな性格」の良さも発揮して次第に自分の居場所をつくっていきます。

 

 自分の力で環境を変えていく

ある日、すずは爆撃により”大怪我”を負います。

 

その怪我を機にすずからはのんきさがなくなり逞しさが出てきます。

すずは『実家のある広島に帰りたい』と主張するようになりました。

 

そうやって自分の気持ちを出すようになって事態が好転していきます。

今まで自分が「申し訳ない」と思っていたことが思い込みだったりなど、北条家の義理の母親や姉から実は信頼を得ていたことに気づくのです。

 

逞しさと優しさは両立する

この映画は舞台は戦時中の広島市と近隣の呉市です。

広島は原爆投下があり、呉市は軍事基地があるので爆撃を受けます。

 

登場人物の男性は軍の関係者が多いのですが、戦争よりもすずの成長の物語です。

 

初めはすずはのんきな平和主義だったんです。

それが18歳で北条家に嫁ぎ、戦争も深まっていく状況の中で逞しさも身につけていきます。

 

それでものんきな性格も変わらず持ち続けているんですよ。

その辺りは物語終盤に表れます。

 

すずは配給の列に並んでいます。

 

そこに義理の姉が「なんの列に並んでいるの?」ときくと

「さぁ。でもなんでもええですよ。なんでも足らんのですけぇ」

と応えます。

 

逞しさとのんきさは両立します。

 

のんきさはのんきさで意味があるのです。

すずが北条家の中に居場所を作れたのは、すずの根っこにある優しさやのんきさによるもの。

 

ただそれだけではすず自身は満足出来なかった。

だから逞しさも身につけた。

 

それでもすずは別人になったわけではなく、昔ののんきさも持ち合わせています。

 

この辺の描写が絶妙なのです。

 

奥が深い『この世界の片隅に』

この映画はすずが自分の力で居場所を作っていく話だと思いますが、もう一つメッセージ性があります。

それは「失ったものは形を変えて帰ってくる」ということ。

 

戦時中でもあるのですずは色んなものを失っていきます。

その瞬間瞬間は悲しみにくれますが、長い目でみれば失ったものは形を変えて自分の手元に戻ってきている。

 

そんな描写が随所に見られます。

 

娯楽作品としても優秀です。

まだまだ上映中なので未見の方はぜひ。